もしも、出かけている途中に急にトイレに行きたくなり、トイレに向かっている途中に止められている他人の自転車を発見しました。
その自転車を見て、「少しだけ拝借して使い、また同じ場所に戻しておけば咎められることはないだろう」と考え、その自転車に乗り用を足した後、1時間ほどで自転車が最初に止められていた場所に戻しました。
さて、これは窃盗罪になるのでしょうか?
他人のものを勝手に持って行ったので、窃盗罪ではないのか?などと思う人もいるのではないでしょうか?
正解から言うと、これは窃盗罪にはなりません。
他人の物をとったのでこれは窃盗罪じゃないの?と思う人もいることでしょう。
刑法でも235条に他人の財物を窃取した者は窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処するとある。
しかし、窃盗罪が成立するためには、窃取した者に「不法領得の意思」があることが必要とされています。
ここで「不法領得の意思」って何?と思う人もいるでしょう。
不法領得の意思とは、簡単にいうと他人ものを利権を得るために自分の占有にすることを言います。
どろぼうが何か盗んだりするときには、これはお金になるから盗ろうと考えたり、何かしら自分に利益になるからということで盗んだりしますよね。
それが不法領得の意思ということになります。
さて、それでは前述した自転車を勝手に持ち出したことはどうでしょうか?
この場合、目的の場所まで使いその後すぐにもとに戻すという考えで無断で乗り、その後もとの場所に戻しています。
窃盗罪が成立するためには不法領得の意思が必要になりますが、これでは不法領得の意思があるとはいえませんよね。
自転車をとり、使用している最中には他者の占有を害していますが、自己の所有物にする気はない。その経済的用法に従い、一時これを利用する意思はありますが、それを処分する意思もありません。
これらのことから不法領得の意思があったとは言えないものと考えられています。
そのことから窃盗罪は成立しないものとされています。
しかし、同じようにもとに戻す意思で、一時的に使用するためにとった場合でも窃盗罪が成立する場合があります。
成立するものとされるのは3つあります。
1つ目は、一時的に使用するとはいえ長時間に及ぶ場合や、長距離に使用している場合。
2つ目は、乗り捨ててもとに戻さない場合。
3つ目は、壊したりするなど、そのものの価値を減らしたりする場合。
これら3つの場合は悪質性が高く不法領得の意思があると解釈された判例があるのです。
実際の判例で説明すると、AさんはBさんに雇用されてその会社で8か月ほど勤務したことがあった。
勤務していたことでBさんの自動車の使用状況も知っていたAさんは、一時使用してもまた戻しておけばBさんは怒らないだろうと安易に考え、Bさんの自動車を合鍵であけて約18時間ほど乗り回した。
Aさんはその間、機会があったのに一言もBさんに断るということをしませんでした。
Bさんはこの自動車を、日常的に使用しており、夜間遅く店舗をまわるために営業用として毎日使用していました。
Aさんも8か月Bさんのもとで働いていたので、そのことは知っており、無断で長時間使用した場合Bさんが困ることも知っており、もし頼んでも貸してくれるはずはないと考え無断で乗り回していた。
この場合は、後で返す意思があったとしても、Aさんの態度はBさんを18時間に渡り無視ないし排除する意思があったとみることができ、一時的にせよ、権利者を無視排除し、無断使用を慣行したのですから、そこに不法領得の意思をみることができるとされています。
長距離も同じように解釈することができますね。
このように法律では、窃盗罪と言っても成立する場合や、成立しない場合があるので奥が深いですね。
今回窃盗罪は成立しないと記載していますが、状況などによっては、他人の物を無断で使用すると窃盗罪は成立しなくても、器物損壊罪などにあたる場合もありますので安易に考えないことです。
器物損壊罪については、また機会がありましたら説明するとしましょう。