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警察官による強制採血が違法とされた判例を解説

日々、発生する事件や事故。

 

それらに対応して治安を守り、社会生活を支える警察。

 

法治国家である日本では、その警察も、様々な活動をするなか、法律に基づいて、手続きをしていくことになります。

 

今回は、そんな警察による捜査活動のなかで、警察による、強制採血が違法とされた判例を、解説していきましょう。

 

この事件は、Aさんが自宅および飲食店で、お酒を飲んだあと、Bさんを同乗させて、乗用車を運転していたところ、前方注視を怠ったことにより、交通事故を起こしてしまったことから始まります。

 

この事故により、同乗していたBさんが死亡し、運転していたAさん自身も顔面や頸部を負傷し、失神状態で病院に搬送されました。

 

Aさんが搬送された病院に勤務する、医師であるCさんは、看護師に指示して、失神状態にあるAさんの静脈から、注射器を使用して約2ミリリットルの血液を採取し、この採取した血液を警察官に渡して、鑑定できるようにしました。

 

実は、この医師であるCさんは、警察の嘱託委であり、交通事故者については、飲酒の有無を確認するため、その疑いがあれば血液を採取するように、警察から委嘱を受けていた者でした。

 

これらの行為が、後の裁判で問題となってしまったのです。

 

 

 

運転していたAさんは、運転前に飲酒していたことから、鑑定結果で飲酒量が分かり、証拠として採用されたのであれば、Aさんによる飲酒運転の事実が証明されるはずです。

 

しかし、第一審の判決で、Aさんの承諾も、身体検査令状もなしになされた、本件採血は違法であるとして、これを資料としてなされた、鑑定の結果を、証拠から排除し、酒酔い運転の事実について、無罪を言い渡しました。

 

そこで、検察側は、第一審判決は、証拠能力についての、法令解釈を誤ったもので、証拠能力がある証拠を排除して、有罪となるはずの事実を無罪と誤認したものであるとして、控訴します。

 

しかし、結局、高等裁判所では、検察側の控訴は棄却され、今回の強制採血は違法であるとされ、第一審判決を肯定することとなりました。

 

ここで、問題となった強制採血について考えてみましょう。

 

まず鑑定などのために警察が採血を行う場合、承諾を得る必要があり、承諾が得られない場合は、裁判官の発する令状が必要となります。

 

たしかに、飲酒運転などを立証するために必要な、けっちゅうのアルコール濃度は、時間の経過とともに薄くなり、長時間経過してしまうと、その立証が困難となり、捜査の目的が達成できなくなる恐れがでてしまいます。

 

そのため、学説のなかには、微量な採血は身体に対する損傷とはならず、健康に対する悪影響の可能性もないという前提に立ち、証拠保全の緊急性、採血方法の相当性、証拠の確実性、補充性等を要件として、令状を必要としない採血を認める見解もあります。

 

しかし、このような見解は、令状主義の見地から問題があるとされています。

 

 

 

まず、たとえ採血が治療の際に行われたもので、僅か2ミリリットルという少量で、身体の健康にどれほどの影響も及ぼさない程のものにすぎなかったとしても、捜査官としては、任意の承諾のもとに血液の提出をうけられない以上、医師であるCさんに対して、裁判官の発する令状を必要とするものであったと、判決で言い渡されています。

 

また、検察側からは、Aさんの面前において、医師であるCさんと警察官が採血についての問答を交わすのを、意識が回復したAさんが見ており、血液の入った試験管が授受されるのを目撃しながらなんら異議を申し立てた形跡もない事情があったとの説明がありました。

 

しかし、Aさんは裁判において、そのような行為は全く分からなかったと説明しており、裁判官もこのことについて、被告人であるAさんが、医師であるCさんの診察室において、意識を回復し、このいきさつを見聞認識したと認めるに足りる証拠がないとしました。

 

さらに、たとえ被告人であるAさんが、見聞認識しつつ、何ら抗議しなかったとしても、現に令状なき採血を拒むことができることを、告知されなかった以上、異議なく承諾したものと解する余地は存しないのであって、いかに本件採血が、危険でも苦痛でもない通常の医学的処置に従って一片の無理強いもなく行われたにしても、なお承諾が無い以上、令状によることを必要とする場合であったといわざるをえないと言い渡されています。

 

また、今回違法とされたポイントには、単に令状がなかったというほかにも、医師であるCさんが警察の嘱託医であったことが前提とされています。

 

判決でも、裁判官は、同医師が同署の警察医を委嘱されているという関係から、運転者の酒気帯びないし、酒酔いの資料とすべき血液の採取保存を依頼し、依頼されているという意識が双方の側にあって、本件の場合もこの意識から、当然のことという気持ちで採血され、且つ受渡しされたものであることが明白であるから、医師であるCさんの採血行為が、警察の捜査活動と無関係な私人の行為であったことにはならないとしている点に注意が必要です。

 

この判決文からすると、全く警察の捜査とは関係のない、医師が採血したものであった場合、事件の態様や状況などによっては証拠とされる場合もありえるということもいえるからです。

 

 

 

今回の判例では、これまで説明してきたとおり、今回の警察の強制採血は違法とされ証拠能力がないものとされました。

 

まとめると、違法とされたポイントは2点あります。

 

〇 医師であるCさんが警察の嘱託医で、まったく捜査とは関係のない私人ではなかっ           たこと。

〇 任意の承諾がないのだから、本来の令状主義に照らし、令状が必要になるところ、令状を取っていなかったこと。

 

この2つが違法とされたポイントといえるでしょう。

 

しかし、法律は少し状況が変わるだけで、適法とされることもあります。

 

ついでに、今回の判例と似た状況の判例で、適法とされたものを紹介しましょう。

 

同じように交通事故で負傷し、失神状態にある被疑者に、飲酒運転の疑いを持った警察官が、看護師に頼んで、被疑者の出血を抑えていたガーゼから、少量の血液を採取してもらった事案がありました。

 

この事案で裁判官は、当該血液採取は、令状も被告人の承諾もなしに行われたもので、一応問題の余地はあるが、当時被告人には、酒気帯び運転の疑いがあったので、被告人の体内のアルコール濃度を測るために、警察官が、手術担当医の承諾の下に、手術中の被告人の体から流れ出る血液を押さえていたガーゼから、看護師に少量の血液を採取してもらったもので、採血は被告人の身体になんらの障害も苦痛も与えるものではなく、たとえ意識不明の被告人や、その家族の同意を得ていなくとも、このような状況下でなされた採血は適法であるとしました。

 

 

 

最初の判例と、とても似たような状況なのですが、違いがあるとすれば、

 

 〇 医師が警察の捜査と関係のない私人であること

 〇 被疑者の身体に直接、注射器を刺していないこと

 

この2点くらいですね。

 

これらのように、法律は少し状況が変わるだけで、適法とされたり、はたまた違法とされたりするため、法律に関わっていく警察官には、法律の知識も重要で、ひとつひとつの行動を慎重に行っていかなければならず、難しい判断が求められるのですね。

 

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